貧困と犯罪と負のループ

スペイン語の家庭教師の家にも日本人が住んでいた。その日本人Sは、日本でスペイン語を専攻していたらしく、スペイン語が堪能で、メキシコで就職活動をするらしい。この町の日本人、みんな、つわもの。

日本人 S は1ヶ月程、グァテマラに行ってくると旅に出た。戻ってくる予定日に、戻って来ないと家庭教師が話すので、心配になった。予定よりずいぶん遅れて、戻っては来たものの、その時の持ち物はTシャツ、割れたメガネ、靴紐のないトレッキングシューズと小さな布袋のみ。出かける時に持って出たバッグパックも中身も全て無く、目には大きな青あざができて、帰ってきたらしい。

戻ったと連絡を受けて、会って話を聞いたら、恐怖すぎた。生きていてよかった。

S は、友達と二人でグァテマラの旅を終えて、S の友達は南米の旅を続け、S はメキシコに戻るので、そこで別れて空港へ行くためのタクシーに乗った。そのタクシーが強盗団だった。空港には向かわず、森林地帯へ入っていった。

こんなところまできたら、もう誰にも見つけてもらえない。自国民の人口すら把握していないような国。外国人の面倒なんてみない。さらには、強盗団には、警察の力なんて及ばないらしい。車の中でどんなに騒いでも、なにを話しても相手は本気だから、ただ彼らの目的地へ向かうのみ。

着いたところは、深い山奥の小さな小屋。彼らのアジトらしき場所。椅子に座らされて、「持っている金目のものを全て出せ」と言われ、クレジットカードを渡して暗証番号を教える。「クレジットカード2枚のキャッシング限度額を引き出したら、相当な額になる」と説明しても「もっとあるだろ出せ」と言われて「これしかない」と言うと、今度は暴力が始まる。

S のバックパックを全てあさって、カードケースの中のプラスチックカードを見つけて、「これはなんだ!」と殴られる。ビデオショップやスーパーのポイントカードだから、お金は引き出せないと説明しても通じない。「暗証番号を言え!」と言われ、「そんなものは無い!」と言って、殴られたところで気を失ったらしい。

目が覚めて、気づいたら草むらの中に倒れていた。これはもう、ここで誰にも見つけれずに終わるんだ、と覚悟したらしい。誰にも見つけられないということは、家族にも連絡が行かない、中南米の熱帯雨林かどこかで行方不明ってことで終わる。

そんな親不孝をするわけにいかない、と S は強盗団に説教を始めた。家族がいるの?家族は、強盗したお金でご飯を買っていることを知っているの?こんなことをして、神の目が見られるの?と聞いたら、彼らはだんだんと、しゅんとなっていったらしい。中南米の人々は、貧しいがゆえに信仰心が厚い。

そして強盗団の一人が言い訳を始めた。そしてついには、神の教えに背いていると認めたけれども、強盗団はやっぱり強盗団で、S の金目のものを身ぐるみ剥がして、S を車に乗せて、高級住宅街の中に降ろした。

解放されたときの姿は、元々、着ていたTシャツ、デニムと靴紐を抜かれた靴を履いて、殴られたときに割れた眼鏡をかけていた。靴紐もお金になるらしい。強盗団がよっぽど、いならなかったのか、Tシャツを一枚だけ渡されて、高級住宅街に捨てられた。

命は助かった。お金が無くて、グァテマラからメキシコまで、どうすればいいのかと途方に暮れていたら、お金持ち母娘が通りかかって助けてくれたそう。なにがあったかを話したら、服、靴、布バッグとチケットを買ってくれて、少しのお金を持たせてくれて、空港まで送ってくれた。

その家族曰く、この国は警察に力はないから、被害届を出しても、犯人のことを通報してもどうにもならない、と。

S が助かったのは、S のスペイン語と、文化的な知識、彼らの信仰心が厚いということを知っていてこそだな、と感じた。私なら、スペイン語を話せなくて、怖くて騒いで、簡単に最期がきただろうな。

メキシコは中南米の中の優等生だといわれているけれど、それでも犯罪が多い。治安が不安定で、悪化の一途をたどっていると外務省のハザードマップ。そこから南下すると危険地帯がさらに多くなる。

貧困も犯罪も国家の力が及ばない。多くの第三国の貧困は、先進国からの援助金を国の特権階級が横領して、必要なところに行かない。そして気付けば、手を付けられないほどの犯罪が横行。だけど国家は、自分たちには関係ないから、放っておく。(それ、日本も同じで、国のお金は必要なところに使われない。与えられた特権は私腹のために。貧困に対応する気は無い。自分たちに関係のないことだから。)規模や特性が少々違っても、起こっていることは同じ。

負のループの根源は誰?どこ?お金かな。人間の欲なのかな。特権階級もお金が欲しいし、貧しい人もお金が欲しい。人間はみんな同じ。お金を目の前にすると自我がなくなる。人間が被っている、自我という膜を剥がしてみれば、身分は関係ない、皆、所詮は動物だから、欲深い。

信仰心(良心)とお金への執着とに相関関係はない。信仰心が厚いからといって、お金がないので諦めて餓死するわけじゃない。生活のためにお金が必要だから、神の教えに背いてでも、罪を犯す。(良心があるフリをして国家の仕事に就いて、目の前にやってきたお金は、自分の欲のために横領する。犯罪なのに、なんで許されるんだろう。不思議。)

侵略のために(多くの場合)、無理やり植え付けられた信仰心、矛盾していて無理がある。宗教だって、誰かが権力やお金(領土)が欲しくて開いたもの。矛盾が起きて当たり前だよね。

こうして日々、いろんなことに出会って、いろんなことを考えて、自分の旅を終えようとしていた。

帰国の日のタクシー、フレンドリーなドライバーだったけど、気を許さないように乗り込んだ。会話を楽しんでいたけれど、途中から、アレ?なんか様子が変かも。さっき空港の看板が見えてずいぶん経つけど全然着かない、と焦り始める。S のことが頭をよぎる。運転手も静かになって、「これはまさか?!」と思って、「空港に着かないよ、なんで?」と聞く。すでに口調強め。

「そうなんだよね、道を間違えてるのかも?」と言いながら、「とぼけるの?」と思いながら、「飛行機に乗れなかったら払ってもらうからね!」攻めたてるように。さっきまでの楽しい雰囲気はなくなっていた。だけど、本当に道に迷っただけだったようで、そうなると、私もしゅんとなる。それでも、自分の身を守るためには。

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