人目も気にしない、トイレだって。

どんな職業でも、職場外では自分たちの会話に気をつける、ものだと思っている。そんなとき、レストランに入って客席を見渡すと目が合うテーブルがある。そこは間違いなく日本人のテーブル。目が合わないテーブルはちゅうごく人なのでその周辺を選ぶ。

ちゅうごく人は全く他人を気にしない。レストランに誰が入ってくるかなんて気にしないから、誰とも目が合わない。日本人はすれ違うときも相手を見る(人が多い)。目が合えばその人は日本人。自分もするからそれがわかる。子どもも少し大きくなると同じ習性を持つようになる。なぜなんだろう。世間体、他人からどう見られているかを気にするせいかな。

ある大通りで、向こう側から歩いてくる男性、なにかがおかしい。近くまで来てわかった。T-シャツのお腹の部分だけめくれ上がっている。最初は、どうした?と驚いたけど暑くなるとそのスタイルの人が街中にあふれて、ついには驚かなくなった。他人からどう見えるかなんて、彼らにとって、どうでもいいことなんだろうね。

電車の中で座っている女性、日本なら足を揃えて座るところを、下着が見えちゃっているのも気にしない。誰も見ていないはずだから。年齢に関係なく超ミニスカートを着たりして、いくつになっても好きな服で自分のおしゃれを楽しんでいる。上海は日本より早く西洋の生活様式が入っているからか、身長も高いし、腰の位置も高いので、それは羨ましい。

噂では聞いたことがあった扉のないトイレ。地方で何度か遭遇した。トイレだけは人目を気にしたいと思っていたけれど、遭遇したらどうしようもない。扉がないってことは「あのポーズ」が無抵抗に丸見え。

ある旅の途中、自分の体より大きな袋を持った行商人が行き交う、長距離バスターミナルの中にトイレが見つからなくて困っていたら、建物の外に有料のトイレがあった。コンクリートでできた小屋の入り口には、パイプ椅子に腰掛けた女性がいて、お金を払うとトイレットペーパーをちぎって渡してくれる。

ほっと安心して、一歩中に入って固まった。一段高いところに和式のトイレが3つ並んでいるだけ。扉も仕切りもない。だけどここを使う以外に選択肢はない。うだうだ言っている時間もない!誰もいない今のうちに!2人で同時にしゃがむ案も出たけど即却下。焦りながらもそこは冷静に。目を見合わせて決心した。お互いに見張りをして交代で用を足す、と。

今だ!と意を決してしゃがんだ瞬間、誰かが入ってきた。驚きすぎて、思わず叫んだ。私の横に黒いロングコート、ロングヘアーの女性がさっとしゃがんで、私のことなんて気にも留めず、用を足している。隣とは肘が当たるほどの距離。一瞬の出来事だった。しゃがんだままあたふたしているのは私だけ。わかったことは、見張りをしていても人が来たら止められないってこと。

トイレの後、笑いが止まらなかった。たぶんその状況も感情も言葉では言い表せなかったんだと思う。笑うしかなかった。まさに人生初の衝撃の経験と、よくわからない感情が混じり合って一日中笑っていた。私の中で何かが一枚むけた。

内モンゴルへ旅したときのこと。大草原の中に四角いコンクリートの建物。一歩入るとすごいにぎわい。10室ほどのトイレが並んでいてよく見ると扉がない。出た出た。一度経験したから、最初に比べると衝撃は少ないはずだった。

でも、いざ自分の順番が近づくとそわそわした。だって日本のサービスエリアのトイレのように自分の後ろにたくさん人が並んでいて、その人たちに自分の「アノ後ろ姿」を見せるんだから。扉の無いトイレ、おもしろいけれど、どうにかして欲しい。誰も私のことなんて見ていない、見ていないと言い聞かせながらしゃがんだ。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です